ムソルグスキー
皆様こんにちは、大野 隆です。
雨の多い日が続いています。
東京も昨日夜激しく降り、今は少し晴れ間が覗いていますが、蒸し暑く、風も強い状況です。
夜に向け、また強い雨になる可能性が高いとのこと。
各地で様々な被害が出ておりますが、これ以上広がらないことを願うばかりです。
今日は、自分が大学院の時に勉強したロシア、東欧音楽、中でも論文でも扱った、ムソルグスキーに関してお話しさせていただきたいと思います。
ロシアと言うと、現在の戦争イメージもあり、これまであまり触れる事はしていませんでしたが、政治的な状況と、生み出されてきた音楽や芸術は、分けて考えてよいのではないかと思い、今回ムソルグスキーに焦点を当てて、少しだけ深掘りしたいなと思っています。
ムソルグスキーと言うと、日本で有名なのは「展覧会の絵」や「禿山の一夜」などに代表される、管弦楽曲が有名ですが、(展覧会の絵はもともとピアノ曲で、後にラベルが管弦楽曲に編曲したもの)実は歌曲もたくさん残しています。
一言で言うと、かなり不器用な人ですが、人付き合いは好きで、友人を大切にする人間味のある人だったそうです。
また、型にはまるのを嫌い、当時重視されていたドイツ的な伝統や、西欧の音楽理論を重視するというよりも、ロシア人の話し方や、民衆の生活そのものを音楽にしたいと考え、作曲技法に関しても自分の感覚を優先する傾向があったようです。
貴族の家に生まれながら、常に弱者や、民衆に寄り添いながら音楽を作る作曲家でした。
そんなムソルグスキーが残した、歌曲の中で、連作歌曲の【死の歌と踊り】と言う作品があります。
1 子守唄
2 セレナード
3 トレパーク
4 司令官
という4曲のタイトルから成る構成になり、
一見不気味で恐ろしいタイトルですが、僕はムソルグスキーの特徴や魅力が全て詰まった作品だと思っています。
それぞれのタイトルごとに内容を軽く触れると、
1の「子守唄」は病気で苦しむ子供と、寄り添う母親の物語で、「語り部」、「母親」、「死神」の3つのパートを歌い分けます。これはまさに、皆さんよくご存知のシューベルトの「魔王」によく似ているなと自分は思いました。
2の「セレナード」ですが、
普段オペラなどで歌われるセレナードと言うのは、恋人が女性の家の窓辺で愛を歌うの、、、といったイメージですが、これは夜に死神が若い女性のもとにやってきて、愛の歌を歌うと言った内容です。
僕、個人的には4曲の中で一番官能的で美しい曲だと思っています。
3の「トレパーク」ですが、これは4曲の中で特に有名な1曲です。
「トレパーク」とは、ロシアの踊りの一種で、例の激しくステップを踏む踊りになります。
年老いた酔っ払いの農民が、雪の降る荒野の中で、死神に捉えられて、一緒に死の踊りを踊らされると言った内容ですが、単に暗い音楽ではなく、劇的で強烈な不協和音が使われているドラマ要素が強い曲だと思います。
ちなみに、ムソルグスキーの生きていた時代には、まだ「農奴制」が残っている時代でした。
貴族であったムソルグスキーの家にも農奴がおり、ムソルグスキーにとっては歴史の教科書に出てくる遠い存在ではく、日常生活の中に実在していた人々です。
歌詞の内容を見ると、農民に寄り添った内容になっていますし、こういったところにも、貴族の出でありながら、民衆や弱い存在に寄り添う想いが現れているのではないかと思います。
4の「司令官」
は、戦場に現れる死神が、死者たちを、自分の軍隊として整列させ、自分の存在の絶対性を高らかに歌うといった内容になります。
非常にドラマティックな、壮大な曲で最後を飾るにふさわしい曲ですが、実際歌うととても難しい曲です😅
自分は4曲とも全て歌いましたが、この最後の司令官だけはとても苦手だったのを覚えています。
この4曲が入った作品を聴く上で面白いのは、随所にムソルグスキーらしい、ただ単に整った音楽を目指していないところだと思います。
人間の話し声のイントネーションを重視し、旋律が音楽のように流れるというより、実際喋っているようなリズムを感じます。
先ほどもお話しした通り、この歌曲集には、ムソルグスキーの魅力がいっぱい詰まっていると思います。
ただ単に「死」を扱った不気味な、暗い曲ではなく、その内容や音楽を1つにまとめ上げた、素晴らしい作品だと思っています。
もしよろしければ、以下から全曲聴くことができますので、ご参照いただければ幸いです。
こちらはピアノ版
そして、ショスタコーヴィッチ編曲のオーケストラ版
個人的には、和音や和声が聴き取り易いピアノ版がお勧めです👍🏼
それぞれの対訳も以下に載せておきますね
●「子守唄」
子供がうめいている、燃え尽きかけた蝋燭が、一晩じゅう揺りかごを揺らしながら、
母は眠りに落ちることもできない。
夜明けの早い時刻、そっと戸を、
慈悲深い「死」がトントンと叩く。
母はびくりと身を震わせ、不安げに振り返る。
「もう怖がらなくていい、私の友よ!
青白い朝が、もう窓から覗いている。
お前は疲れたのだ、少し眠りなさい。
お前の子は病んでいる、けれどもうすぐ
永遠に眠るだろう。
だから泣くな、苦しむな、
恐れるな、愛しい人よ!
私がお前の子を眠りにつかせよう。
静かに揺すってあげよう。
あの子には心地よい眠りとなるだろう、
静かな眠りとなるだろう。
永遠の安らぎが、あの子には訪れるだろう。」
●「セレナーデ」
魔法のような陶酔、青い夜、
春の震えるような薄暮。
病める娘は頭をうなだれ、
夜の静けさのささやきに耳を澄ます。
眠りは、その輝く瞳を閉じさせない。
生命は彼女を歓びへと呼びかける。
その一方、真夜中の静寂の中、
窓の下では「死」がセレナーデを歌っている。
「厳しく狭い束縛の闇の中で、
お前の若さはしおれてゆく。
見知らぬ騎士が、不可思議な力をもって、
お前を死へと誘っている。
その重い眠りを、抱擁で払いのけよう。
生命の終わりを近づけよう。
お前は永遠の花嫁となるのだ、
そして私はお前のもとへ近づこう。
●「トレパーク」
森と野原、あたりには人影もない。
吹雪が泣き、うめいている。
聞こえてくる、まるで夜の闇の中で、
邪悪な何かが誰かを葬っているかのように。
見れば、まさにその通り!
闇の中で一人の男を、
死が抱きしめ、愛撫している。
酔った男と二人でトレパークを踊り、
耳元で歌をささやく。
「おお、かわいそうな小さな老人よ、
酔いつぶれて、道をふらふら歩いてきたのだな。
ほら、吹雪という魔女が立ち上がり、荒れ狂った。
お前を野原から、知らぬ間に深い森へ追い込んだ。
悲しみと苦しみと貧しさに打ちひしがれたお前、
さあ横になれ、寄りかかって眠れ、愛しい人よ!
私がお前を、雪で暖めてあげよう、かわいい人よ。
お前の周りで、大きな踊りを始めよう。
さあ、寝床をふんわり整えろ、白鳥のような吹雪よ!
さあ始めろ、歌い出せ、吹雪よ!
一晩中続くような、おとぎ話をしてやろう。
朝までお前が目を覚まさないように。
春になって太陽が暖める頃には、
お前はもう墓の中に横たわっているだろう。」
●「司令官」
戦いが轟き、甲冑がきらめく。
貪欲な大砲が轟音を上げ、
軍勢が駆け、馬が疾走し、
赤い川が流れてゆく。
真昼は燃え、人々は戦う。
太陽が傾いても、戦いはいっそう激しくなる。
夕焼けが青ざめても、なお戦いは続き、
夜まで人々は激しく戦い続ける。
そして今、夜の、墓場のような静寂の中、
血が流れた戦場に、
死が勝ち誇って立っている。
そして恐ろしい思いを抱いて、我々を見つめている。
倒れた軍勢の上に、
倒れた陣営の上に、
死はその覆いを広げる。
すべての者を呼び集める大声で、
死者たちの中に王のように立っている。
「死すべき者たちは、私の名を呼ぶ。
私はお前たちの上に立つ王、王なのだ!」
もしよかったら、歌詞を参照していただきながら実際に聴いていただければ、より深く味わっていただけるのかなと思っております。
なかなか深く、その特殊な表題から、これまで歌う機会はほとんどありませんでしたが、これを機に今後少しずつ歌って行けたらうれしいなと思っています😌
当時、勉強していた楽譜


それではまた!
不順な天候が続きますが、皆様どうかご自愛くださいね。
大野 隆でした👋
